【over night】 - 3 −

 備え付けのバスローヴではなく、フィオレはタオルで衛を包み込んだ。
 背後から抱き締めるように、優しく濡れた肌を拭いてやる。
 湯で暖まったのと、愛撫により反応して敏感になった衛の身体は、ほんのりと紅潮していた。

「衛くん、ほら動くとちゃんと拭けないよ」
「フィオレ、そんなの適当でいいから」
「急かさないで」

 衛がもどかしそうにフィオレの腕から抜けてベッドに誘う。
 フィオレはわざと焦らして、衛の身体をゆっくりと撫でた。

「……わっ?」

 濡れた髪の雫を拭きとっていたフィオレが、突然タオルを衛の頭に被せ、手で掻き回した。
 髪の毛をくしゃくしゃにされ、衛はフィオレの子供っぽい行動に笑った。

「やめろよ、フィオレ」

 だがフィオレはそのままタオルで衛の瞼を覆い、目隠しをする。

「フィオレ?何だよ」
「ねぇ、このまま君を運びたい」
「自分で歩けるよ」
「いいじゃない、ね?」

 衛は逆らわなかった。今日は普段よりフィオレを受け入れるのに寛容になっている。
 湯船でフィオレに身体中を弄られて、既に前義を終えている状態だ。敢て焦らすつもりは無かった。
 
 フィオレは衛を抱き締めながら、支えるように衛の歩行を誘導した。
 視界を遮られた衛は、殆ど抱かれる形で、フィオレに導かれるままに歩いた。

「フィオレ…」
「ゆっくり歩いて、そう」

 柔らかな絨毯を裸足で踏む。
 バスルームから部屋へ戻ったことを衛は知った。この向こうにはベッドルームがある。

 だが、ベッドに運ばれると思っていた衛の予想を裏切って、フィオレは衛の身体を突然背後から抱き締めた。

「…!?フィオレ…?」

 押されて思わず手を付く。目の前は壁らしい。

「…フィオ…?」
「衛くん、ベッドに入る前に、このままやらせて?」
「え?」
「今日はいつもよりずっと素直で可愛いね、衛くん。僕、もう待てないよ」

 フィオレは衛を立たせたまま、アナルに指を突き刺した。

「な、何考えて…、んんっ!」

 指が萎縮する衛の内部を穿り回す。

「あっ、や…、やめ…っ!」

 中途半端に感じさせらた後だけに、快感を取り戻すのは早かった。
 指先が求める部分を突付いて刺激する。衛はその度に背筋を奮わせた。

「お湯の中で解したつもりだったんだけど、やっぱり何か付けなきゃ駄目かな?」
「フィオレ…、もう、…あっ…」
「衛くん、このまま挿れてもいい?」
「…い…挿れ…」
「いい子だね。…動かないで、一気に挿れるよ」
「-----ひっ!」

 フィオレは言葉通り、衛のアナルに先端を捩り入れた途端に、一気に突き上げた。

「……うくっ!」
「…う…」

 衛の喉が悲鳴を飲み込む。同時にフィオレも苦痛の喘ぎを漏らした。
 だが、痛みを伴うものの、普段より楽に挿入が完了する。

「ごめん、衛くん…。でも、もう挿っちゃったよ…?」
「あ…、あぅ…」

 立ったまま貫かれ、衛は下半身を圧迫されて快感を失った。痛みよりも息苦しさに身体が支配される。

「衛くん、見てごらん?」
「……?」

 そのまま暫く動きを止めると、フィオレは衛の視界を遮っていたタオルを外した。
 ぼんやりと回復する視力に、衛は自身を見た。

「…あっ、フィ、フィオレ?」

 衛は羞恥した。
 立たせられていた場所は部屋にある、全身映る大きな姿見の前だった。
 感触に違和感を感じてたいたのだが、衛は鏡に向かって掌を着いていた。

「や…やめろ…っ!」

 フィオレに抱かれた自身の姿を至近距離で見せられる。情けない自分の表情が目の前にあった。

「ほら、良く見て」
「フィオレ、…やめてくれ…、こんなこと…」
「君が今どうされているか、ちゃんと見てご覧よ」
「…あぅっ」


 
 フィオレは動きを開始した。
 繋がった部分が一気に熱くなり、痛みと快感が甦る。

「衛くん、僕に支配されている君をちゃんと見て」
「んんっ!…あっ!」
「ほら、僕に突き上げられて、君のここがどうなっているか、」

 フィオレは衛のペニスを握って擦り上げる。
 すっかり勃ち上がって射精を待ち望む衛のペニスが、鏡の向こうに映っていた。

「あ…、フィオレ…、やだ…」
「…衛くん。君は今、僕のものだよ?良く覚えておいて。君がいつもどんな風に、どんな表情で僕の支配を悦ぶのか、ちゃんと知ってて」
「…ひっ!…フィ、フィオレ…!」
「衛くん…」
「ああっ!!」

 フィオレの激しい動きに刺激を与え続けられ、乱暴な指の動きでペニスを扱かれた衛は、焦らされて解放を待ち続けていた事もあって容易く果てた。
 勢い良く鏡に向かって射精し、精液が衛を映し出した表面を白く汚した。

■ ■ ■


 限界まで焦らされて一気に解放された衛は、風呂場で湯にあたっていたせいもあって、射精した直後に全身の力を失った。
 そのまま立っていられずに、崩れ落ちるように前屈みに膝を着いた。
 衛の放出とほぼ同時に達したフィオレも、同じように膝を折る。
 大きく肩で呼吸する衛を、支えていたフィオレは自分の胸に背後から抱き寄せた。

「衛くん…、大丈夫?」
「…ん…」

 絨毯の上に座り込んだフィオレは、まだ息の荒い衛の両足を掴んで、鏡の前で大きく広げさせた。

「…フィ、フィオレっ!」
「ほら、衛くん」
「……っ!」

 身体に力が戻らない。抵抗も適わず、衛はフィオレのいいなりに脚を開かれた自身を見つめた。

「い…嫌だ…!」
「駄目。さっきはここが見えなかっただろ?ちゃんとここも見て」

 フィオレは衛の尻が持ち上がるように体制を整える。
 凭れかかって寝そべるような格好で、衛は身体を寝かされる。

「あ…!」

 フィオレは衛のアナルが鏡に映るように、更に腿を掴んで開脚した。

「…ひっ!」

 ペニスを持ち上げられて、双丘を広げて蕾を見えるようにされた。
 衛は目を閉じて、自身の恥部から目を反らした。

「衛くん、どうなってるのか見るんだよ」
「んんっ!」

 双丘を開かれ蕾を指で抉じ開けられる。広げられた部分からフィオレの放った精液が零れた。
 じわりと生暖かい感触が腿を伝う。

「自分で見るの嫌?僕がいつも見てるところなのに」
「嫌…だ」
「見なきゃ駄目だ。ほら、これで君が僕のものだってこと、良く判るだろ?」
「……あ」

 フィオレは衛の内股に流れた雫を指で掬い取ると、衛の唇の端に付けた。

「フィオレ…」
「君は僕に身体をくれた…。君の身体を抱いてる時は、君は僕のものなんだよ。ちゃんと覚えていて、衛くん…」

 衛は抵抗出来ずに鏡に映る自分の姿を見つめた。
 羞恥でしかない情けない格好だった。だが、鏡の向こうの自分が泣きそうな表情を浮かべながらも、悦んでいるのが衛には良く判る。
 そしてフィオレが見ている自分がどちらなのかも、衛は漸く知る事が出来た。

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